正論:5月号佐藤孝弘氏『保守することを学べ』

(今日はここから)
佐藤孝弘氏『保守することを学べ』と言う論文だ。
著者は経産省の役人だった人で、まだ35,6の人です。
こういう若い人が保守を語るようになったのは心強い。
いつものように箇条書きにしてみます。

1.総選挙も近いが、政党をどのような基準で選んだらいいだろうか。
その基準の一つが保守主義の観点からの判断である。
保守主義とはなにか。
「保守主義は環境変化への対応についての構え方」である。
保守主義は現状維持や退嬰主義ではない。つまり、変化の拒否ではない。
だから、進歩主義と保守主義は変化への対応の仕方、と言う点では似た者同士なのだ。

(私の注;保守主義の定義は色々あって決まったものがない。
以前紹介したのは「懐疑主義」「共同体主義」「漸進主義」だった。
この方が内容が広くて良いかもしれない。)

2.保守主義と進歩主義とを比較すると、保守主義の考え方が分かりやすい。
そこで、二つを比較検討して見よう。

3.進歩主義は人間の理性に大きな信頼を置く。
そのため、個人の合理的な判断や認識が正しい、という前提をとる。
そして、時代が進むと人間の理性や合理性も進歩発展すると考える。
科学技術の進歩に大きな信頼を寄せ、人間を含む自然をコントロールできると信じる。
この自然の管理、という前提および発想から国家や社会も人為的に計画的にかんりが可能だ、と言う考えになる。
国家や社会を家を建てるように設計して作ろうとする社会主義、共産主義に結びつく。

(私の注;進歩主義はヨーロッパの啓蒙思想から出発している。
非常に強い神様であるキリスト教から逃れるために神を否定し、それに代わって理性を立てようとした。
しかし、理性は神たり得ないから、どうしても無理が生じる。)

4.これに対し、保守主義はどうか。
保守主義は人間の理性に懐疑的だ。
いつになっても間違いを繰り返す、と言う前提でものを考える。
理性に信頼を置かないのなら何を信頼して変化への問題を解決するのか。
過去の歴史や経験と振り返って対応を考える。
勿論そこで理性を使うのだが、先人の知恵を借りるわけだ。
長年歴史の試練の中で生き残ってきたものを重視する。
先人もその時々で変化に対応しようとしたのだ。その対応の繰り返しを潜り抜けてきたものを大切にする。

理性を完全には信じないから、絶対的な正義、絶対的な真理と称するものを存在しない物と考える。
国家社会は沢山の人間の複雑な動きによるから理性では全部を理解できないと考える。
ましてや理性で設計などとても不可能だ、と思う。
国家社会を理念によって単純化せず、複雑なものとしての前提で理解し、解決しようとする。
進歩主義の、計画主義設計主義的発想を否定し、自由や価値観の多様性を重視する。

(私の注;過去の知恵を借りるのだから必然的に進歩主義は採用しない。
世の中が進歩発展するのは文明の部分で世の中には変化しない部分があると考えるのだ。)

5.保守主義を攻撃するのに、「守旧派」「抵抗勢力」「既得権者」などの否定的イメージがある。
これらは本来の保守主義とはかなり遠い概念で、実は「官僚主義」を表している。
官僚制は徹底的に前例踏襲、現状維持を主義としている。
進歩主義者が保守主義を貶めるためわざと混同して攻撃するのだ。

6.そこで、現実の政党に上記の考えを当てはめてみよう。
民主党の「行政の無駄をなくす」「子供手当」「高校無料化」「ガソリン税廃止」はどう考えたらよいか。
これらの政策は全て失敗に終わったが、これらは皆進歩主義的な政策である。
進歩主義は社会を単純明快な理念によって改良できる、と考える。
たとえば、「国民の生活が第一」と言う理念を民主党はスローガンとした。
しかし、実行するための政策立案は全く出来なかった。理性で解決できなかったのだ。
結局官僚機構に丸投げするしかなかった。官僚機構は前例主義だから消費税増税を持ち出した。
そもそも理性によって問題が解決できる、理想が実現できる、というのが間違いだったのだ。

7.自民党はどうだろう。
今国民は国家の将来に強い不安を持っているが、それに対し自民党は解決策の提示が出来ないでいる。
なぜ提示できないか。それは自民党が高度成長時代に利益配分だけを問題にしてきたからだ。
そしてそれ以外を官僚に任せてきた。だから、そういう能力を失ってしまった。

今日本が抱える問題は複雑多岐にわたり、単純な理念やスローガンで解決できるような代物でない。
国家社会が複雑多様の中で、何を保守し、何を政策として変えるか、これは政治家しかできない。
自民党は国民に答えるべきだ。

(私の注;日本人はこういうこんな時、どうしたか。
聖徳太子の十七条憲法でも五箇条のご誓文でも「よく話し合え」と言った。
まず徹底的に議論し合うことだ。
自民党はその議論の政策立案過程をオープンにして結論を出して、政策を国民に問うべきだ。
そして、やってみて悪ければまた議論して修正し、トライアルエラーで進めばいいのだ。)

8.大阪維新の会の橋下氏はどうだろう。
今度「船中八策」と言うものを発表し、評判が悪いのでうやむやにしようとしている。
これは民主党のスローガン政治と同じだ。

また、進歩主義の計画設計思想による政策が見られるが、その実行の困難さはあまり考えていないようだ。
例えば「ベーシックインカム」政策だが、全国民に月額7万円一律に配る、と言う政策だ。
簡単に計算して年間84兆円必要だ。こんなものが実現できるのだろうか。
実現したとして国民の勤労意欲などの弊害はどんなものだろう。
その他思わぬ事態が発生するかもしれない。
計画主義、設計主義で全ての事態に対応できる、と考えるほど世の中は甘くない。

9.これらの政党の政策を点検するのに保守主義ではどうしたらいいか。
政策として変化を強調するのでなく、「何を保守するか」「何を変えないのか」が重要になるだろう。
視点を逆に考えて保守するもの、変えないものを見ればいろいろなものが見えてくるのではないか。
政策の背景には必ず思想哲学がある。それが「変えないもの」だ。
政治家や政党の選別はその「変わらない物」をじっくり見ることで出来る。
国民が試されるのは批判力と常識だ。

(私の注;あるいは哲学なんか何もないかもしれない。
民主党の政治家を見ると、保守主義や進歩主義以前に政治家として当事者意識や責任感、義務感が無い。
これは理性至上主義からくる個人の権利重視、人権思想などが高じた結果だ。)

今日はここまでです。ではまた