中野剛志先生の「日本思想史新論」の解説1204-8-99/13

中野剛志先生の「日本思想史新論」の解説の続きです。
なぜこの本を紹介するかと言うと現在の問題の解決に役立つからです。
つまり、実務的実用的な学問なわけです。

江戸時代の儒学者、伊藤仁斎荻生徂徠などがどのように言っていたのか、それが現代に生かせるのか検討しよう。
現代の日本が直面する諸問題、TPPや外交問題に参考にできるだろうか。

(今日はここから)

1.著者がこの本を書いた動機というのは、
90年代から現在に至るまで国民的支持の元に行われた「構造改革」運動が失敗した原因を考えようとしたからです。

構造改革運動は郵政民営化などの行政改革、規制緩和、貿易自由化、対外市場開放、などの政策のことです。
これを「第三の開国」などと言って政官財マスコミ学者等々オールジャパンで推進した。

この構造改革は、国民の支持や扇動者たちの歴史的使命感にもかかわらず、失敗した。
戦後他国に例を見ない長期のデフレ不況、経済成長は殆どせず、世界第二位の経済大国からも陥落した。
一世帯当たりの平均給与は1994年をピークに構造改革の進展とともに減少し続けた。
今では20年前の水準を下回っている。失業率は上昇し、格差は広がり、少子高齢化は進んでいる。
年間自殺者は1998年構造改革たけなわのころから3万人を超え続けている。

社会の閉塞感は構造改革以前より深刻化し、政権交代を生み出し、混乱に拍車をかけた。
国際社会における地位も著しく低下した。

2.そして、このような悲惨な目に合っているにも関わらず、更に「平成の開国」と称してTPP参加を決めている。
推進論者は現在の日本の閉塞を打破するためには国を開くことが大切だ、と言う。
このTPPはオバマ大統領がアメリカの失業率を改善するために推進しようとするものだ。
アメリカの失業率が改善される、と言うことは日本の失業率がそれだけ悪化する、と言うことだ。
TPPに反対する農業団体に対してはその閉鎖性を批判し、「開国か、鎖国か」という図式で論評する。
この場合の開国とは関税のことだが、日本の全品目平均関税率は鹿目里香より低い水準だ。
だから、アメリカより開国している、と言えるのだ。
また、農業でも食料自給率が低く、逆に食料安全保障が問題になる位市場を海外に開放している。
失敗した構造改革でも叫ばれ、TPP問題でも言われる「開国」とはなんなのか。

3.構造改革やTPPのスローガンとして使われる「開国」は、
戦後の日本人が長く信じてきた「開国物語」と言うイデオロギーが根底にある。
その「開国物語」の考え方がが根本的に間違っていたのだ。

開国物語とは、ごく簡単に言えば明治維新は開国したから成功した、発展した、と言う発想だ。
簡単な図式で言うと、国内の今までの体制は悪、海外の進んだ体制は善、と言う考え方だ。
これを国民は信じきっている。だから大阪の橋下さんは「船中八策」などと当時の言葉を言う。
この「開国物語」を間違いだ、と認識しないと同じ失敗を繰り返し、最後は滅亡に至るだろう。
この間違いを立証するために開国論者が否定する会沢正志斉(あいざわせいしさい)を取り上げる。

(私の注;この「開国物語」論は教育勅語をの否定批判するサヨク的思想につながるものだ。
だから著者の開国物語の批判は教育勅語の肯定という立場になる。
「開国物語」は戦後体制そのものともいえる思想なので、
これをはっきりここまで批判したのは著者が初めてじゃないか。

著者はイギリスに留学して、デビットヒュームなどのイギリス保守主義を勉強した。
だから歴史観がシッカリしている。
蛇足だが、イギリスはマルクスが亡命して資本論を書いたから共産主義の本家みたいなものだ。
また、フェビアン協会といって、社会主義思想の元祖だ。
ところが、イギリスは共産主義にもならず、ヒットラー国家社会主義も反対した。
フェビアン型の社会主義は労働党によって一旦徹底的に行われたがサッチャー改革で180度転換した。
フランス革命もエドマンドバークなどによってイギリスには伝搬しなかった。
今問題になっているユーロ共同体は共産主義と同じような通貨の全体主義だが、イギリスは加わらない。

これらの過激思想を退け、国家の安定に寄与したのが上記のヒュームなどを代表とする保守主義なのだ。)

今日は短いけど、ここまでにします。
本を何度も読み返して時間がかかった。短く要約するのはなかなか難しい。

今日はここまで、ではまた。