渡辺惣樹対談1411-20-563-11/21メルマガブログ転送

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宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
平成26年(2014)11月20日(木曜日)
      通巻第4400号
 (本号は通巻4400号達成特別号です)
特別対談 宮?正弘 vs 渡邊惣樹(カナダ在住ノンフィクション作家)
(見出し)
「酷似する歴史パターン。排日から排華へ傾斜するカナダ
  海洋国家同士の覇権争いが環太平洋の戦争の歴史でもあった」

(引用開始)

 <カナダ西海岸バンクーバー在住の歴史ノンフィクション作家・渡邊惣樹氏を宮崎正弘が訪ねた。14年六月下旬である。
 渡邊氏は『日米衝突の根源』『TPP知財戦争の始まり』『ルーズベルトの戦争責任』(いずれも草思舎)など旺盛な作品で知られ、山本比地平推奨賞受賞。

***(中略)

渡辺 バンクーバーへよくいらっしゃいました。
いろいろ当地をご案内した通り、この町は日本との関係に溢れています。カナダ太平洋鉄道バンクーバー駅は、一八八五年に開通した大陸横断鉄道の西端ですが、この鉄道は極東に地殻変動を起こしました。この鉄道開通で、極東有事の際にイギリスはロシアよりも早く極東への兵力展開が可能になりました。これにあせったロシアが、シベリア鉄道開発に躍起になります。
ウラジオストックの起工式に向かう皇太子ニコライが襲われた大津事件(一八九一年)も、言ってみればこの鉄道ができなければ起きていなかったともいえます。
またオールド・チャイナタウンをご案内しましたが、この隣にはかつて日本人街があった。一九〇七年九月には白人労働者に襲われました。この事件はアメリカが一九二四年に実施する「排日移民法」にまで拡大し、日米対立の起点になりました。いずれにせよこの町は日本の現代史と関わりが深い。ここで宮崎先生と対談の機会をもてたことは何か歴史の必然を感じます。 

 宮崎 その排日移民法が昨今は「排華移民法」?
 というのも四万六千人の中国からの移民申請をペンディングにして中国人があわてています。最近の米加・中関係を見ておりますと、嘗て米国が西へ西へと進出しハワイを併合しフィリピンを植民地化して次に必ず日米衝突になると渡邊さんは歴史文献を調べ上げて『日米衝突の根源』(草思社)を書かれた。
通史では日露戦争に日本が勝利したのち、米国の警戒が増したように歴史教科書にも書かれていますが、あの戦争は徹頭徹尾、米国がしかけた謀略です。

***(中略)

米国は日欧豪とアセアンを動員して中国封じ込めを展開しているかのようですが、バンクーバーにおられてどのようにご覧になりますか?


 渡辺 アメリカとイギリスは違う部分も多いのですが、双子のように似ているなと思わざるを得ないところがあります。一九世紀末から二〇世紀前半の歴史をみますと、この両国は、大陸覇権国家が海に進出して海洋覇権国家にまでなろうとすると必ずつぶしにきました。

 アメリカが二〇世紀初頭にロシアを警戒し、日本の軍事力を使ってロシアの極東進出を抑えたのも、ロシアがウラジオストックからさらに旅順に軍港を築き西太平洋に進出しようとしたからです。
イギリスがドイツを叩いた第一次世界大戦も、ヴィルヘルム二世が、英国艦隊に挑戦し、北海から大西洋の制海権に挑戦を始めたことに端を発しています。アメリカが日本を先の大戦で潰したのは上記のケースとは逆のパターンですが本質は同じです。海洋覇権国家日本が支那大陸をコントロールしようとしたこと、つまり大陸覇権国家にまでなろうとしたからです。
イギリスとアメリカは大陸覇権国家が海に出ようとすると必ず押さえ込むというDNAを持っています。
それはこの二国が海洋覇権を牛耳ることで世界に君臨してきたからです。
現代の大陸覇権国家中国の南シナ海および東シナ海進出は、アメリカの持つDNAを強く刺激しています。必ず抑え込みに来ます。アメリカは、かつてロシアの太平洋への進出を日本を使って抑えこんだように日本、アセアン諸国あるいはEUとの関係などあらゆる外交手段を使って中国の海洋進出に対抗するでしょう。問題はオバマ大統領が、あのセオドア・ルーズベルトがみせたような外交手腕を持っているか、どうかでしょう。


宮崎 とくに日本はTPP賛成に回り、中国を排除しているためTPPが中国を苛立たせていますね。
もっとも知的財産権を顧慮せず国際ルールを無視する中国がTPPに加盟すると攪乱要因になるだけでほかのメンバーも中国を最初から仲間に加える意思もないようですが、果たしてTPPは日本の安全保障に直結するのかどうか。つけくわえておきますと個人的に小生はTPPに反対ですが。。。

  渡辺 TPPは上記に述べた中国の海洋覇権国家たらんとする欲望を抑えるという重要な側面があります。アメリカは自由貿易などにまったく興味がありません。
彼らが理屈をこねくり回して自国の自動車産業を徹底的に保護しようとしている態度でそれがわかります。興味ある読者には拙著『TPP知財戦争の始まり』(草思社)を読んで頂くとして、彼らの狙いはアメリカ企業の持つ知的財産をこれ以上中国に簒奪されてたまるかということです。
例えば社員の使うコンピューターに巨額なライセンス料を支払っている米国や日本の企業が、海賊版ソフトを使っている中国企業(あるいは韓国企業)に太刀打ちできるのか。TPP交渉では、知的財産侵害大国である中国と韓国はTPPのメンバーではない。彼らを知的財産保護のルールつくりの会議に参加させたくないのです。
中国の富は、所詮低賃金労働力、知的財産の違法使用、環境を無視した製造などをベースにしての世界の工場化で実現されたものです。
TPPはこの構造にメスを入れる。米国のTPP促進勢力の中心は現在の米国の国力の源泉ともいえるコンピューター・ソフトウェアや薬品あるいは高度精密機械工業などの知的財産集約産業のロビー団体です。TPPの本質からいえば、日本の米(こめ)市場開放を要求するロビー団体などはにぎやかし程度の団体ですから農業分野では日本の国益を考えて徹底的にアメリカとやり合えばよい。
しかし知的財産権保護の国際ルールつくりにはアメリカとタッグを組んだ方がよいでしょう。


 宮崎 とはいえ、米国の奥底にある筈の隠れた意図がまだ読めない。FDR(フランクリン・ルーズベルト大統領)のようにしゃかりきに反日で、次々と日本に難題をふっかけて戦争を誘導したような謀略もなければ明確な野心がオバマにないように見えます。

 渡邊 この問題については、アメリカのホワイトハウスをみているだけでは理解が難しいところがあります。

 宮崎 ブッシュ・ジュニア政権の初期は「戦略的競合相手」と中国を定義していたのに911テロ事件からは突如、「戦略的パートナー」に格上げしてテロ戦争に中国の協力が必要となった。
その前のクリントン政権では、このあたりを「曖昧にする」、すなわち「曖昧戦略」と言っていた。オバマ政権となるとペンタゴンだけは中国の海軍力の充足に瞠目し盛んに軍事的脅威をいうが国務省は曖昧な対応に終始し、財務省は大甘とバラバラでしょう。
財務省歴代長官ともなるとポールソンもルォも日本の頭越しに北京に通って「保有している米国債を売るな」と懇願している。小生に言わせればドルが減価されると困るのは中国であり、米国債を売ることはもはや出来ない。
「ドルの罠」に陥ったのですね。

だからクリントン夫人だったヒラリーが国務長官時代は「G2は存在しない」と強気の発言をしていますが、オバマは硬軟路線が交錯している。そのひとつの例が日本やフィリピンを訪問した二〇一四年四月の直前にわざわざミシェル夫人を大統領専用機で一週間も訪中させ、友好を振りまかせた。
こういうジグザグぶりに米国内でも批判が強いけれど、中国は米国のこうした輻輳した信号をいかに捉えたのでしょうか?


 渡辺 アメリカの動きを理解するには、表に出ている事件つまりメディアが扱う事件をみていると理解しにくくなることが多々あります。オバマ政権の外交は、アメリカ共和党の中に自然発生的に出てきたティーパーティー運動との関連で捉える必要があります。
この運動の本質は「小さな政府」への回帰です。フランクリン・ルーズベルト以前のアメリカは、世界のもめごとに余計なおせっかいをしない、という非干渉主義の世論が圧倒的でした。一九四一年時点でも八割を超えていました。
フランクリン・ルーズベルトの外交は、ドイツと日本を徹底的に刺激して、戦争に持込み、一九二九年以来の不況から脱出したいというウォールストリートの願望を実現したという側面があることは否定できません。ルーズベルト外交がアメリカを世界の警察官に変貌させました。911テロ事件では、世界の警察官になることがアメリカ国民にとっていかに危険であるかを気づかせました。

さらにこの事件で政府機関は焼け太った。その典型が国土安全保障省の創設でした。さらに防衛産業も潤った。イラクにアメリカが作り上げた大使館の建設コストは七億五千万ドルもかかっている。
これで潤ったのはハリバートンなどのアメリカ軍需産業です。
911テロ事件は大きな政府をますます大きくしました。アメリカ国民はそれにはっきりと気づいた。もういいかげんにしてくれということで、小さな政府回帰運動が起こった。私はこのうねりはもっと大きくなると思っています。
民主党と妥協を重ね大きな政府つくりに協力してきた共和党主流派がいまその波に晒されています。
共和党下院のリーダーであったエリック・カンター議員が今秋の中間選挙の党内予備選でティーパーティーの候補に大敗を喫しました(六月十日)。アメリカの小さな政府運動のパワーをオバマ政権は感じています。世界の警察官のままでいたい既得権益層と、もう余計な外交をするなという小さな政府回帰層とのせめぎあいの中でオバマ外交は揺れ動いています。
オバマ大統領も国務省も、どこに向かっていったらよいかわからない。ですから表面的に出てくるオバマ政権の外交はいきあたりばったりで、論理立てて解釈することは難しくなると思います。

 宮崎 米国の優柔不断と政策決定のメカニズムが昔とは異なり、逆に言えば、この弱点をついてハッカーの先制攻撃をやられると日米や加・豪が必ずしも安心とは言えないのではないか? 近い将来「米中衝突」は起こるか、否か?
 小生は小規模の軍事衝突はあり得ると考えていますが。たとえば漁民を装った兵士が尖閣諸島に上陸した場合、日米は盛んに「離島奪回作戦」を展開しています。実際に上陸がなされたとき、本気で武闘ができるのか、どうか。
 
渡辺 この問題もうねりを増すティーパーティーの活動と併せて考えなくてはなりません。
私は、小さな政府回帰運動が「孤立主義」で連想されるようなアメリカ一国主義になるとは思いません。戦略的パートナーを選択した外交に移行して、アメリカの安全保障に直結する国だけは徹底的に守る。漠然とした世界の警察官外交はもうしないということです。
シリアでもウクライナでもアメリカは口先介入に終始せざるを得なかった。アメリカの安全保障に直結しない地域で自国民が血を流すことを、アメリカ国民はもはや許さない。そういう空気ができています。
それでは、尖閣列島での日中の衝突をアメリカ世論がどうとらえるのか。先に述べたようにアメリカは海洋覇権国家であり、太平洋はアメリカの湖です。私は太平洋覇権の重要性は、小さな政府を支持する人々であっても気づいていると信じています。
国防省を中心として太平洋を守るというDNAは綿々と伝わっています。アメリカは日本を失ったら太平洋方面で孤立します。私は有事となれば必ず米軍は自衛隊と協力すると読んでいます。中国はそのことがわかっている。
だから南京事件や韓国慰安婦(売春婦)問題を使って日本は守る価値のない国であるとの世論工作キャンペーンを執拗にしかけるのです。


 宮崎 ところでバンクーバー香港人が多くて「ホンクーバー」などと呼ばれたけれど、いまでは中国大陸からの移民が急増し、チャイナタウンは一地域ではなく全域に広がってきてカナダ政府は移民規制に乗り出すようですが、中国に隠れている韓国の進出ぶりは如何ですか?


 渡辺 私の住む町は白人人口の多いところですが、息子の通う学校に韓国人の子供が少しずつ増えています。彼らの父親のほとんどが、韓国本国あるいはアメリカから家族のために仕送りを続けて、たまにバンクーバーにやってくるだけ。彼らは韓国人の間では自虐的に「ツバメ」と呼ばれています。
移民あるいは長期滞在資格がない場合、公立学校でも年間一万ドルを超える学費を支払わなくてはなりません。子供を兵役に送りたくないという親の気持ちがなせるわざだと思います。
二〇一一年の統計ですとメトロ・バンクーバーの人口およそ二百万のうち中国系三〇パーセントに対し韓国系日系ともにが15パーセント前後です。しかし韓国系の人口は徐々に増えています。
日本人と違うのは彼らはキリスト教徒であるということで、すぐに教会をたてる。宗教の観点からみれば白人社会との垣根が低いかもしれません。彼らは日本人とは違い集団で生活します。
バンクーバー周辺には小さなコリアンタウンが複数出現しています。彼らが、カリフォルニアの韓国系移民と同様に、慰安婦像設置運動などの活動を始めるかどうか注視しています。日本領事館はまったく頼りになりませんから民間で頑張らなくてはならないでしょう。

 宮崎 最後にカナダから日本をご覧になっていて、どういう印象がありますか。とくに安倍政権以来の日本の経済回復とからめてのアジア戦略に関して。

 渡辺 先に述べたようにアメリカでは小さな政府回帰運動が強い訴求力をもってアメリカ各地に伝播しています。先の大統領選挙の際共和党大統領候補選挙で善戦したロン・ポール前下院議員(テキサス州)が、ティーパーティーの精神的支柱になっています。
彼は、アメリカの中央銀行であるFRBを徹底的に批判しています。FRBがお金を大量に供給してリーマンショックから回復を見せましたが、ティーパーティー支持者は、FRBこそが大きな政府を生み出す悪の根源だと考えています。

彼らはお金を刷る行為が中立的ではなく、一部の既得権益者にひどく有利であることに気づいているのです。ばらまかれたお金はまたぞろゾンビのように利益を求めて徘徊します。日本では、株価回復と浮かれていますが、アメリカでは、特に大学生を中心とした若い知識層の間で、ケインズ経済学の限界を理解するものが多くなってきました。彼らは必ず次のリーマンショックがあることを確信しています。こうした層がティーパーティー支持者のコアになっています。
正解を提示できない現在の経済学の限界を知った上で、ではどうするのか。そういう経済システムのありかたそのものを考える根源的な議論が活発化しています。私は、アベノミクスの第三の矢は失敗するだろうと悲観的です。
理由は簡単です。アメリカでもそれは成功していないからです。
残念ながら日本のメディアに登場する評論家はこのあたりをほとんど理解していません。いつやってくるかわからない地震と同じで次の「リーマンショック」に備え賢明な企業経営あるいは投資戦略がいまほど重要になっている時はないのです。
  
  (この対談は6月27日にバンクーバーの渡邊邸で。7月に出た晋遊舎版ムック『READ JAPAN』から発売期間が過ぎましたので転載します)

(引用終了)

(私のコメント)
この人の本は大体全部読んでいるが、歴史家としては一流だ。
歴史家は広く高い視点を持たないといけないし、正邪善悪がきちんと判断できる基盤のようなものを持っていないといけない。
それと、人間としての情、喜怒哀楽、愛憎も捨ててはいけない。
歴史学は科学だ、等と言って冷静ぶって過去の人をけなし貶めるのが正しい態度だ、というようなクサイエセ歴史学者は多い。
こいつらは自分が神様のような偉い人間だ、というような傲慢な態度で歴史を裁くが、こういうのを夜郎自大という。
この人は日本だけでなくアメリカに対する愛情もあるし、何か人間の業のようなものを悲しく見つめているスタンスがある。
それで、この人の本はどれも500ページ以上の大冊の本だが夢中で読めてしまう。
ところで、歴史を研究し本を読むのは将来を予測する指針にするため、というのが目的の一つだ。
そこで、上記の対談から重要だと思われる所を抜粋してみよう。
1.世界各国は昔から平時でも軍隊を使わない戦争、覇権争いを続けている。
大陸横断の鉄道敷設も一種の戦争で、アメリカが万難を排して太平洋まで鉄道を敷設したから直ぐイギリスもカナダに敷設した。
その結果ロシアもシベリア鉄道の必要が生じた。
シベリア鉄道はアメリカの資本と技術で作られた。
現在でも軍隊を使わない戦争が続いているのだ。
こういう厳しい世界を日本人は全く理解できない。
日本も吉田松陰のような兵学者が出てこないとだめだ。

2.米国の重要産業は自動車と先端IT技術だ。この分野は日本にもシナにも譲れないだろう。
日本は利害が一致するこれらの部分はアメリカと組み、農業分野などは利害が対立するから争ったほうがいい。

3.オバマ政権の対シナ外交は迷走していてよく分からないが、理解するキーワードは「ティーパーティー運動」だ。
つまり、小さな政府、世界の揉め事に余計なおせっかいをしないで本当に利害があるものだけにする、という考えだ。
この思想がどんどん大きくなっている。それでオバマ国務省も混乱している状態だ。
ただし、米国は米国の安全保障に影響があるものは徹底的に守る伝統がある。
太平洋はアメリカの湖でその重要性は小さな政府支持者であってもよく知っている。
だから、尖閣有事の時は米軍は必ず出てくる。
逆にそれだからこそシナに融和的に対応してそのような事態を避けようとしている。
シナもそれを知っているから歴史問題で米国や世界にキャンペーンを張って日本を守る価値がないと思わせるようにしている。

4.アメリカの若い人たちの中から経済学はあてにならない事をわかった上で、ではどうするのか、という議論が活発になっている。
こういう層がティーパーティー運動の中核になっている。

5.安倍政権の第三の矢、すなわち成長戦略は失敗するだろうと見る。
なぜならアメリカで失敗しているからだ。
企業経営者は次のリーマン・ショックに備えて準備しておく必要がある。

(私のコメント終)