本の紹介
枡野俊明(ますのしゅんみょう)著
「心配事の9割は起こらない」
著者は曹洞宗禅宗)の僧侶で日本庭園の設計者

・本の内容目次から
第一章
禅的な不安や悩みの遠ざけ方
第二章
今できることだけに集中する
第三章
競争から一歩離れる
第四章
人間関係が楽になるヒント
第五章
悩み方を変える

(前回の要約)
(カッコ内は私のコメント)

(この本では触れていないが、我々が心で考えたり意識するのは脳の前頭野と言う部分で、
脳のごく一部なのだ。
脳の大部分は人間の意識でコントロール出来ない無意識野で占められている。
だから、我々が心に浮かばせる諸々の心象は無意識から浮かび上がってくるものなのだ。
意識と無意識が互いに影響しあってやりとりしていると考えてもいい。
禅宗の直指人心、見性成仏、不立文字などの考え方は無意識を取り入れたものと考えられる。
禅宗の考え方は、大脳生理学や心理学からアプローチしても面白い。
大脳生理学から見ると禅宗の考えかたは理にかなっており、理解も深まる。

例えば、上機嫌、肯定思考、プラスの言葉を使う、と言うような心の目標は、
無意識が意識に浮かばせる心象をこれらの条件にかなったものだけ受け入れる、という訓練だ。
そうする内に無意識も上機嫌や肯定的なものしか意識野に提供しないようになる。
つまり、意識が無意識を学習させるわけだ。

また、座禅を組んで妄想をやめて無心に集中すると、意識部分の前頭野を休ませることになる。
そうすると、無意識部分が活性化する。
意識と無意識を互いにコントロールしてバランスを取らないといけない。
このバランスが禅では修行と言い意識無意識全体をを良い方向に向かわせる作業になる。)

(なお、無意識には人間の本能を含んでいる。
心に浮かぶものはこういう感情情緒から逃れられない。
だから啓蒙思想、理性主義などのいわゆるサヨク思想は実は感情が影に隠れているのだ。
マルキストなどが掲げる平等は嫉妬という感情が影にある。
それを彼らは科学的で普遍的だと強弁するが実は人間の劣情から理論構築している。
だから彼らが権力を握ると内ゲバや虐殺が始まるのだ。)

第一章
禅的な不安や悩みの遠ざけ方

1.シンプルに生きる。

2.心を占める心配事の大半は余計な妄想。

3.妄想を排除する方法は、当面やるべき生活上の作業や仕事に集中する。

4.神(ご先祖様でもいい)に祈ること。

5.自分ではどうにもならないことは悩んでも意味が無い。

6.人の見方(長所)を変えると対人的な悩みを解消出来る。

第二章
今できることだけに集中する

1.当たり前の日常をもっと大切に「ありがたいな」と思って生きてみることだ。

2.成長する為にはきちんと失敗の原因を見極める休みの時間が必要だ。

3.落ち込んだら早く立ち直ろう。

4.心に余裕を作る一番の方法は朝を大切にすること。

5.他人の価値観に振り回されず、自分のものさしで生きる。

6.「大地黄金」今いる所、自分が置かれている場所で精一杯尽くす、するとその場所は黄金のように輝く。

7.「ああ今私はイライラしているようだ」と自分を観察する。
客観的に見るようにするとやがて消えていく。

8.何かの判断も夜にすると間違いが多い。
判断はできるだけ朝に光の中のほうが良い。

第三章
競争から一歩離れる

1.仕事においては人との勝ち負けのこだわりを捨てる。

2.他人の才能を羨んでも何も始まりません。
それより、自分の出来る努力をコツコツ続ける習慣を身につける。
禅宗の公案に「香厳撃竹(きょうげんげきちく)」という有名な話がある。

3.日本人は「おかげ様」という思いやりと感謝の心を持っている。
このおかげさまの意味はご先祖様のおかげと言う意味が元の意味だ。

4.良い言葉を使う。
言葉には天地をひっくり返すほどの力がある、と道元禅師が言っている。

5.どんな悪い境遇でも自分を生かすことができる、そこでの体験が将来飛躍のバネになる。
禅のキーワードは「日々是好日」(にちにちこれこうにち)

6.今日やるべき事は今日やる。
もっとも大事な事は今日ただいまを無心に精一杯の心で生きることだ。

7.世の中に失敗というものはない。諦めた時が失敗である。

8.人は人、自分は自分。
自分には厳しく、人には寛容な姿勢が仕事をうまく進めるコツだ。

9.ものごとは、「流れ」というものがある。
流れに任せてただ流されるだけでなく、流れと共に行くのだ。

10.セールスにかぎらず仕事をする上で最も大切なのが「信頼」だ。
信頼は沈黙に宿っているので、言葉の巧みさの中ではない。

11.禅の呼吸法について。
禅語の「平常心是道」(へいじょうしんこれみち)はいつも穏やかな心、静かな心でいることを言う。
禅の言葉「調身、調息、調心」(「姿勢を整える、呼吸を整える、心を整える。」という意味。)
有名な禅僧は「怒りの感情は頭まで上げるな」と教えている。
そして、「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん」
と呪文を唱えるともっと効果があるという。
「勝って奢らず、負けて腐らず」が平常心だ。

第四章
人間関係が楽になるヒント

1.仏教の根本的考え方はあるゆるものが因縁によって生じている、この世に存在している、というものだ。
だから、どんな出会いも偶然でなく、仏様が下さった必然の結果だから、相手に対して感謝の気持を持とうというのが基本だ。

2.縁には良縁と悪縁があり、良縁はどうしたら得られるか。
禅語では「歩々是道場」(ほほこれどうじょう)と言って何をしていても禅の修行だ、というのが基本にある。
一生懸命やっている人には一生懸命やっている人の良縁がやってくる。
いい加減にやっている人はいい加減な悪縁がやってくる、ということになる。

3.人間関係の最高のコツは「お先にどうぞ」だ。
お先にどうぞ、と言うのは私は二番手だ、ということだ。
実力のある二番手は最高の強みになる。

無財の七施
1.眼施(げんせ)        
(優しい眼差しで人を見る。)
2.和顔悦色施(わがんえつじきせ)
(にこやかな顔で接する。)
3.言辞施(ごんじせ)
(相手を思いやる優しい言葉、感謝の言葉を使う。)
4.身施(しんせ)
(荷物を持ってやるとか、出来る事を体を使ってしてあげる。)
5.心施(しんせ)
(他人と共に喜び、共に悲しみ、他人の気持ちを感じ取る。)
6.床座施(しょうざせ)
(席を譲ること、独り占めにしないこと)
7.房舎施(ぼうしゃせ)
(来客を暖かく迎えること)

禅宗では特に「和顔愛語」(わげんあいご)といって、穏やかな笑顔、思いやりのある言葉を重要視する。
「お先にどうぞ」はその修業実践とも言えるものだ。

4.人間関係で注意するところは、自分が正論だと思っても、一方的に押し付けないことだ。
誰でも自分の意見には少なからず自身を持っているし、正しいと思っている。
そこで、相手の考えも一旦受け止めた上で淡々と自分の持論も展開する、
「相手の顔も立てる」「win-winの関係」と言う言葉は人とのつながりには必要だ。

5.感性や感覚を磨くには思考する脳を一旦休ませる事が必要だ。
そこで、許す範囲で「自然を感じながらぼんやりする時間」を取るといい。

6.人付き合いには大事な原則がある。
論語に出てくる言葉で言えば「恕(じょ)」という。
弟子が孔子に対し「人間が一生守るべき最も大切な事はなんでしょうか」
と質問すると孔子は「それは恕か」と答えた。
恕はこの場合、人を許す、と言う意味になる。

7. 人との付き合いの中で過ちがあった時は、すぐに認める。
友人との間でちょっとした感情の行き違いや言葉の取り違えがあるのは当たり前なことだ。
肝心なのはその後の対応、つまり事後処理が重要だ。
論語に次の言葉がある。
「過ちては改むるに憚ることなかれ」
「過ちて改めざる是を過ちと謂う」
謝罪の鉄則は「すぐに」「直接」謝る、ということです。

8.禅語に「門を開けば福寿多し」と言う言葉がある。
何もかも包み隠さずあからさまにしてしまえば良いことがたくさんある、という意味だ。
自分には手に負えないトラブルが起きたときなど、 1人で抱え込まずに助けを求めればいい。
手を差し伸べてくれる人は必ずどこかにいるはずです。

9.人は付き合ってる人に生かされ、またその人を生かしてもいる。
禅語では「清風明月を払い、明月清風を払う」という。
持ちつ持たれつ何とかうまくやっていく。
それが人間関係を円滑にする知恵でありコツというものだ。

10.人間関係に損得勘定を入れるとギクシャクする。
損得勘定を人間関係の前提にしてはいけない。

 


(今日はここから)

第五章
悩み方を変える

1.欲望にはきりがない、「少欲知足」足るを知る者は富む。
お釈迦様のご臨終前の最後の教えとされる、「仏遺教経」(ぶつゆいぎょうきょう)に次の通り書かれている。
「足ることを知っている人は地べたに寝ていてもなお安楽だ。
足ることを知らないものはどんなに裕福でも心はいかにも寂しい。」
人間は所詮「起きて半畳寝て一畳天下取っても二合半(しか食べられない)」だけの存在だ。

(幸福とは主観なのだ。この世に理想はない。でも現実だけ、というのも寂しい。
その中間のいい加減がいいのではないか。そこそこ幸せ、あるものに感謝。そんな塩梅)
勝海舟は言う「生きている社会を死んでいる理屈で計ったってうまくいくはずがない」)

2.今の世の中は進歩主義、理性至上主義だから老人はダメで若いのがいい、という価値観で出来ている。
しかし、経験を積んで、醸成されるおおらかな心は老人の最大の魅力だ。
作家の田辺聖子は「老いの楽しみは人間に対する知識が深まること」と言っている。
老いをそのまま受け入れ、ゆったりと構え、世の中を眺めてゆく、これほどの楽しみはない。
間違っても進歩主義に踊らされて、若いふりしたり、真似したりしないことだ。

3.老人の心がけについて。
まず、身だしなみ、こざっぱりと清潔に服装姿勢を整える。
「調身、調息、調心」は外形から始めるのだ。
次に「ユーモア精神」これは落語が一番だ。
年をとったら落語を聞くのがいい。
禅は「実践」を尊ぶから、落語の登場人物のような人情味あふれる明るい人々のユーモアを実践してもいい。
ユーモアの効果は大変なものだ。

3.恋愛で心がけるのは「腹八分目」だ。
相手に完璧を求めない。
違っていて当たり前、この感覚を忘れないこと。
お互いの理解度が80%ならこれ以上ない良い相性だ。
逆に50%以下なら止めたほうがいい。
恋愛はまず見た目から始まる。
だが、付き合って見ると、価値観が重要になってくる。
価値観が違えば絶対にうまくいかない。
価値観が80%合えば、これ以上の良縁はない。
「恋愛は美しき誤解、結婚は残酷な理解」ということわざがあるが、
これは多分に見た目で結婚し、価値観の相違に苦しむことを言っている。

4.夫婦の間でグチをこぼし合うような間柄なら上出来だ。
グチがこぼせるのは相手に対して信頼があるから。
グチは裸の心が言わせるものだから、相手への信頼がなければできない。
夫婦の間で信頼を醸成するには普段から信頼感が伝わるような行動を心がける。
禅は実践行動のものだ。

5.死ぬことは仏様にお任せする。
道元禅師の「修証義」(しゅうしょうぎ)という書物に、
「生を明らめ死を明らめるは仏家一大事の因縁なり」とある。
「生きている時は生ききる。死ぬ時は死にきる」
「悟りと言うのは、人間は何時死んでもいいと思うことでない。平気で生きていることが悟りだ。」
生が終わるのが死でなく、生と死は繋がっているわけでなく、生き切っていれば自ずと絶対死がやってくる。
禅はそういう考え方をする。

6.最後の言葉はどんな言葉か。
辞世の句としてどのような言葉を残すか。
死を意識したものでなくてもいいから、年始などに何か感想を残しておくといい。


(この本はこれで終了)