本の紹介


(題名)

広宮孝信著「日本経済のミステリーは心理学で解ける」
第四回


(目次紹介)
広宮孝信著「日本経済のミステリーは心理学で解ける」
第一章;成長と繁栄を運命づけられた世界経済、限界は常に突破されてきた
マクロ経済学の有り様と個人の有り様が非常に高い共通性があること。
第二章;マクロ経済=人間の集合体の心理、限界突破のための理論的基礎
マクロ経済学を知るためには個人の、自分自身の心理について知る必要がある。
第三章;限界突破のための個人心理(準備編)、否定と肯定で分かるあなたの心と脳の仕組み
否定はストレスを産み、肯定はストレスを解除する。
第四章;限界突破のための個人心理(実践編)、費用0円で誰でも作れる究極の社会基盤作り
自らの限界を突破するための方法論

(本文要約引用開始)
第一章;成長と繁栄を運命づけられた世界経済、限界は常に突破されてきた

(内容を一言で要約すると)
世界経済は破綻を繰り返してきたが、その都度それを乗り越えて成長してきた。
今後も成長を続けるだろう。
その成長を実現するためには、技術の発達と経済格差が少ない社会の2つが必須項目だ。
この2つを実現するためには個人および集団の心理的感情的安定が大事だと考える。
そこで第二章以降を人間精神の安定と完成のためにどうすればいいか検討する。

第二章;マクロ経済=人間の集合体の心理、限界突破のための理論的基礎

(内容を一言で要約すると)
経済学以前に個人レベル、集合レベルの心の持ち方を研究すべきだ。
現在の脳医学、心理学は人間の精神について科学的に研究を進めており、大いに参考になる。
人の心は無意識の情動と意識の感情部分に分けられ、無意識部分のコントロールが大切なのだ。
無意識を手懐ける(てなずける)ための情緒コントロール法の開発が社会の安定に重要で、この章以下のテーマになる。
(なお、この部分が前に紹介した仏教的な心のコントロール法と重なってくる)


第三章;限界突破のための個人心理(準備編)、否定と肯定で分かるあなたの心と脳の仕組み
否定はストレスを産み、肯定はストレスを解除する。

(内容を一言で要約すると)

感情は2つの状態に分けられる。
一つは肯定的で安定した状態で、もう一つは否定的で不安定な状態。
恐怖、ストレス、トラウマ、抑圧など否定的状態では免疫機能の低下や思考能力の低下をもたらす。
愛情、感謝、抑圧やストレスの少ない肯定的状態では人間の能力の最大限の発揮が見られる。
肯定的な感情は無意識を管理して、ストレスや抑圧を押さえ、精神を安定化させる。
その為には仏教の知恵である「無意識部分の意識化、脱同一化、脱自動化」を実行するとよい。

(今日はここから)

第四章;限界突破のための個人心理(実践編)、費用0円で誰でも作れる究極の社会基盤作り
自らの限界を突破するための方法論

1.この章では、感情コントロール法を検討する。
感情に対しては、孫子の兵法「それ、兵は水に象る(かたどる)」が参考になる。
この意味は
「水がその容器に応じて自由自在に変形するように臨機応変に現状に対応すること」
「相手の動きを利用して勝利を得る」ということで、
これを感情コントロールについて応用すると、
「自分の内部で起きているすべての事象を確認し、それに臨機応変に応じて承認、肯定すること。」となる。
「感情に対応して自由自在、臨機応変に対応する。」となる。

2.本章で言う感情コントロール法の重要テーマは次の通り。
「ストレスというのは心の無秩序状態だが、これに秩序を与えるには、ストレス状態を「肯定」することで、脳の前頭前野を活性化させてやる。
この肯定という作業をどうやるか」というものです。
感情コントロール法は「ストレスを如何に肯定するか」という具体的な実行法のことだ。
しかし、感情コントロール法は各人が自分の個性に従って作るもので、各々で工夫すべきものだ。
そこで、それを作る方法について検討し、各人がそれを作る時の参考にしたい。

3.まず自分の心を第三者的に内観的に研究するような立場を取る。
自分の心を心理学研究の立場に立ったもう一人の自分を置き、自分で自分の「情動」を観察してゆくのだ。

4.まず最初にいらいらしたり、怒ったり、落ち込んだりする「情動」の動きを沈める方法を考える。
情動は自動的に起きるし、人の自己保存本能から来るから無くすわけにいかない。
だか、これは心の暴れ馬のようなものだから起きたとしても早期に冷静になる必要がある。
前章で書かれた通り、情動は「脱同一化、脱自動化」が効果的だ。
これを手軽に早く図るには「魔法の呪文」のようなものを用意しておくのも一つの方法だ。
筆者の提案では情動、つまり「イライラ、ムカムカ」が起きたら、その対象と自分の反応を客観視して
「これは興味深い現象だ」と言ってみる。
例えば、店の対応にイライラした時、「自分の無意識が反応している、これは興味深い現象だ」と言ってみる。
苛々するのは当然のことだが、それ以上情動が独り歩きして暴れないようにする。
その時、苛々を抑えようとするとそれが抑圧になるから、そのストレスが反乱を起こす。
それを、この呪文で切り抜けようとするわけだ。
興味深い、とはストレスに対する肯定であり、承認だが、愛情とか感謝ほどには強くないため使用範囲が広い。
嫌な奴でも「興味深いやつだ、興味深い話だ」とはいえる。
これによって、情動反応している体と自分自身とをを完全に切り分ける事が出来る。
その2つを切り離すことは、自分の心の脱同一化であり、脱自動化であり、情動を意識化したことになる。
この方法を自分に試してうまくいかなければ、また別の方法を試してみる。

5.別の方法としては、「イライラ、ムカムカ」の情動部分をモデル化、擬人化して切り離す方法がある。
心のなかで反逆を起こしている部分を人や動物に例える。
「俺はあいつが嫌いだ」というのは「私の部下達(家臣でも子どもたちでもよい)はあいつをきらっているな」
と言ってみる。
そうすると、最高司令官である「自我」とそれ以外の部分、無意識情動部分に分けて認識できる。
その無意識からくる認識は否定するのでなく肯定してやれば落ち着きを取り戻す。
落ち着けばそれが独り歩きしたり、暴走したりしない。
こういう方法は何回も使っている内、効果がなくなる時もある。
その時は又別の方法を考える。

6.前述した「脱同一化」「脱自動化」は精神科医が瞑想の効果を説明するときにも使われる。
次に瞑想の概要について説明する。
瞑想には「集中型」と「洞察型」の2つのタイプがある。
集中型とは例えばろうそくの灯やマントラ(呪文)など何らかの対象に注意を固定して集中する。
これによって深い精神の集中状態がもたらされることになる。
洞察型は内面の精神機能の性質を観察、洞察することのほうに重点をおく。
東南アジア上座部仏教の伝統的修行の中で行われていたヴィパッサナー瞑想などが代表例である。
ヴィパッサナー瞑想はアメリカで心理療法として導入される代表的なものになっている。
この瞑想法は瞑想中に意識に登ってきた様々な感情や思考全てをそれがどんなものであろうとも無視するようなことはしない。
心の内容物を抑圧せず肯定し、事実をありのままに観察することから始める。
上記の「それは興味深い」と言ってみたり「擬人化」したりするのは心の内部を実況中継しようとする試みであり、洞察型瞑想の応用です。
なお坐禅はこの2つの瞑想集中型と洞察型が両方含まれた実践体系と考えられている。

7.瞑想は精神障害を持つ人々では逆にその障害が活発になってしまった事例があり、逆効果のリスクがある。
通常人のストレスに対処するには瞑想は効果的であり、精神科疾患を持つものはやらないほうが良い。

8.感情コントロール法は身体感覚コントロール法でもある。
お腹が痛い場合お腹が痛いと言う代わりに自分に対して他人事のように自分はお腹が痛いようだと言ってみる。
試験に落ちたときなども「どうやかなり辛い思いをしているらしい」と言う。
なかなか寝付けない時は「どうやら自分は寝付けないで焦っているようだ」と言ってみる。
そうやって心が落ち着いてくれば次の対処方法が生まれてくる。

9. 1番のコツは無意識情動分野から上がってきた気分、感覚、意識を肯定してやること。
肯定することによって前頭前野を活性化し扁桃体を抑制する。
そうすることによってストレスを軽減させていく。
もちろんお腹がいたければ薬を飲むなり医者に見せるなり臨機応変に対応することが必要で、瞑想だけで解決するものでは無い。

10.瞑想と同様に重要なのが体の運動だ。
規則的に体の運動することはストレスの解消に非常に効果がある。
ガン患者は筋肉労働者が低く、あまり筋肉を動かさない職業の人はガンになりやすいと言う研究結果もある。
また、運動の中で「散歩」が一番手軽で極めて効果的な心身の調和法だ。
散歩に由る適度な運動はストレス解消効果と共に散歩中の瞑想効果も得られる。
何も外に出かけずとも家の中をぐるぐる歩いてみても構わない。
何か気持ちがふさぐ時は立ち上がって周りをオリのなかの熊のように歩いても良い。
外気に触れる散歩は論理的思考を担当する前頭前野や海馬と情動反応を担当する無意識系の扁桃体が調和的に協働しやすくなるのだろう。

11.イライラなどのストレスを解消する方法ばかりでなく簡単により良い気分になるための方法も開発してみる。
横になるか、椅子に座って心を落ち着かせ自分に向かって次のように唱えてみる。
「さっきより少しだけいい気分になったところを想像してみよう」
これを「最高にいい気分になる」まで繰り返す。
さらに「 今まで経験したことのないぐらい最高にいい気分になったところを想像してみよう」
「もう1段限界を超えていい気分になったところを想像してみよう」
これを繰り返していい気分を極限まで高めてみる。
次に「いい気分」と言うところを「深い愛情を持つ」「深い感謝の気持ち」など言い換えてみる。

12.ただしこのやり方は言葉が長く体が思うように反応しない場合もある。
そこで「気分が良い」「深い感動」「感謝」などキーワードを心の中で唱え、それに関する自由な連想を心に促す。
総合的リラックス法は次の通り。
①全身をスキャンしながら不快な場所を見つけ「この辺は痛い(辛い、疲れている等)らしい、と唱える。
②全身をスキャンし「この辺は柔らかくなった状態、自由連想」と唱える。
③感謝の気持ちや感動状態を極限まで高める。
④感謝や感動の気持ちを高めたところで目標達成、願望実現のイメージ訓練を行う。
これを基本に自分流に作り替えて実際に快適になるようにする。

13. ある人に神を知る状態というものがあるとすれば、その人の心身が完全に調和のとれた状態、
すなわち「自律神経のバランスが整い心拍数が安定し、最も能力を発揮しやすい心理状態」の事であると考えられる。
その具体的な達成のための手法は上記コントロール法に示したとおりだが、この状態は中国の老子が言う「徳のある状態」に似ている。
「その雄(ゆう)を知りて、その雌(し)を守れば、天下の谿(けい)となる」
(男性的なものと女性的なもののように対立的なものを治めることが出来れば天下の器となる。)
(意識や論理的思考は男性的な物、無意識や感情は女性的なもの、と捉えても良い。)
(「知りて」も「守れば」もどちらも治める、統治するという意味)

「天下の谿(けい)となれば、常の徳は離れず、嬰児に復帰す」
(天下のすべてを収容する器になれば常に徳の備わった状態すなわち生まれたての赤ん坊のように白紙の状態、すなわち完璧にバランスのとれた状態になる)

「その白きを知りて、その黒きを守れば天下の式(のり)となる」
(善と悪を両方とも上手く治めればすなわち天下の模範となる)

「天下の式(のり)となれば、常の徳はたがわず無極に復帰す」
(天下の模範となれば徳は損なわれず無極、すなわち偏りのない状態になれる)
(意識と無意識、善意と悪意、公益と私益、など相反するものも両方肯定してバランスさせることが「徳」と言う。)

「その栄を知りて、その辱を守れば天下の谷となる」
(ほめられたり、けなされたりすることをうまく治めれば天下のすべてを治める器になる)

「天下の谷となれば、常の徳はすなわち足り、樸(ボク)に復帰す」
(天下のすべてを治める器になれば何の加工もしていない切り出したばかりの材木のように完璧にバランスのとれた状態となる。)

老子の言う「徳」とは白と黒のような正反対の概念を両方とも上手く納めた状態だ、と言うことになる。
意識と無意識の不調和によるストレス反応を軽減させるには両方とも否定抑圧せず肯定することによって、扁桃体の抑制と前頭前野の活性化を図り、思考能力や免疫機能などを高めることだ。

「徳を積む」とはこのように相反するものをバランスをとっておさめていく、そういう修行の過程のことを言う。


(要約引用終了)